菅井益郎の回答①        | 足尾鉱毒事件自由討論会

菅井益郎の回答①       

「公害の原点」といわれる事件に多くの疑問を抱いた私は、まず、百科事典や歴史事典でどう書かれているかをチェックしてみました。
結果は驚くべきもので、客観的な事実を理路整然と記したものはゼロ。専門家がまじめに調べてあるとはとても思えませんでした。

そこで私は、各事典の編集部に問題点を指摘した手紙を送り付けました。出版社名は次の通りです。
小学館、角川書店、河出書房新社、山川出版社、朝倉書店、東京創元社、吉川弘文館、旺文社、講談社。

このうちのただ一社、小学館の出版局事典担当の日東寺義昌氏から返事がありました。
これには、同社発行の『日本歴史大事典』の執筆者・菅井益郎先生に、砂川氏の書簡を見せて見解を求めたところ、当社に返事があったので、そのまま同封しますと書かれており、「編集部としては、砂川様のご指摘は確かに承りました、と申し上げるばかりでございます」と、会社側の見解も述べてありました。

菅井益郎とは、日本経済史を専攻する国学院大学の教授で、特に足尾鉱毒事件に詳しく、上記事典のほかに小学館の『日本大百科全集』,平凡社の『世界大百科事典』,同社の『日本史大事典』にも執筆しています。
小学館の日東寺氏に宛てた菅井教授の手紙には、まずこうありました。


「砂川氏からの質問あるいは批判について若干小生の考えをのべさせてもらいます。手紙を読む限り、砂川氏は鉱毒被害についてほとんど調査したことがないのではないか、また公害の特質・問題点を理解していないのではないかと思われます。公害は加害者側からではなく被害者側から見なくては肝腎なことは何も見えないのであり、そのことはこの手紙の文面からもわかります。」


どうやら、菅井教授は、私がこの事件を加害者側からだけ解釈していると考えたようです。
しかし、公害は被害者側から見ればそれでいいのでしょうか。しかも、被害者側といっても、実際には、田中正造派と非田中派があり、それに、被害者ではない田中正造個人もあることになります。
この三者のうち、菅井氏は、「解決策は足尾銅山をつぶすしかない」といい続けて、被害者側からも孤立した正造の側だけに立っていると、彼の手紙から私は判断しました。